いつものように図書館へと出かけ、
『夜は短し歩けよ乙女』 森見登美彦著を借りてきました。
不眠症でなにもかもどうでもよく面倒に感じているのに、どうしたものか己の空虚を埋めんがため書籍を手にとってしまうのであります。
というわけで、いつものように偏屈な感想を思いつくままに書き連ねておきます。
読んでみてどんどん続きが読みたい、本を読む手が止まらないという本に久しぶり出会えました。
良くぞ書いて下さいましたと感謝を述べたいくらいです。おそらく、私と同じような恋人いない歴が四半世紀以上のどちらかと言うと硬派な男性諸君ならば同じような感想に至るのではないかと思う。もちろん、全国の書店員のみなさんが熱烈にプッシュしているだけあって万人にお勧めできる一冊でもある。
本書は雑誌や新聞の書籍の紹介欄にて度々取り上げられていたが、アマゾンやセブンアンドワイなどのオンライン書店でもその人気ぶりには驚かされる。それほど多くの人が主人公の価値観に共鳴し彼の恋愛を応援していたことの現れであろう。
最初ぱらぱらと読んでみて、古典文学的で丁寧語を装った"です・ます"調が多く桜庭 一樹著の『少女七竈と七人の可愛そうな大人 』に似ているなと思ったが、読み進めていくと加速度的にテンションが高まる文体から 秋田 禎信著の魔術師オーフェン(無謀編シリーズ)に近いような気がしました。とはいえ、類似点の上げやすさでは
『 少女七竈と七人の可愛そうな大人 』の方が多いかもしれません。共に現代の日本を舞台にしているにも関わらず、携帯やパソコンなどのIT器機は登場せず情報化社会に振り回されないゆるやかな雰囲気が表現されています。もう一つの共通点はヒロインが色白・天然・華奢という特徴を兼ね備えた少女であることです。これはメールアドレスも聞き出す勇気を持たず自分の行動にブレーキ掛けっぱなしの硬派な男性が希望を抱き好きになれる女性像ではないかと思います。なにしろ、現代社会を生き抜く逞しい女性たちは男性に選ばれるよりも選ぶ比率が高いわけでして、ダメだしされるのを恐れて男たちは怯えているわけです。中にはあきらめて二次元の世界へエスケープする輩も出てくるほどです。そのようなわけで、天然という愛くるしくほんわかと隙を持っていて、尚且つ守ってあげたいという男としての正義の本能を呼び起こさせる華奢な容姿がヒロインとしてネックになってくるような気がします。
ところで、華奢という要素はもう一つの意味合いがあるような気がします。それは華奢な容姿はグラビアアイドルのようなセクシーな容姿とは対比しているということであります。つまり華奢な容姿が愛ならばセクシーな容姿は性的な特徴を表しているということであります。主人公は硬派な男性ですので、度々登場する閨房調査団に篭絡されるどころか柳田邦男さながらにその行いを否定しています。そのことは彼が無意識に恋愛の対象は煩悩とは逆であるという価値観を生み出していることを表しているような気がします。そして、その結果として主人公が華奢な容姿のヒロインを好きになったわけです。
しかし、考えてみれば愛と性を分断してしまうというのはおかしなものです。なにしろ、ギリシア神話に見られるように元来は愛と性はエロスとして一体の存在であったわけですから。ですが、オリエントの異教の地より別の愛の神アプ
ロディテ(ヴィーナス)が到来したことにより、理性を持ったギリシア人は愛と性を分けて考えるようになったわけです。理性があるからこそ我々は倫理的に事を考え法律を犯さないわけですが、理性のおかげで本能との葛藤が人を苦しめるわけです。そして、全く持って理性を受け入れた硬派な主人公は恋愛対象も理性に従って見つけるに至ったわけです。
おや、気がつけば随分と他の書籍との比較から脱線してしまいました。
さて、それでは簡単に『夜は短し歩けよ乙女 』を読んだ感想やらを思いついたままに書き連ねておきます。
小説の舞台は現代の京都。主人公とヒロインは京大生で京大を中心に多くの八百万の神のような登場人物が脇役として登場してきます。
実際の地名が豊富に登場しますので京都ガイドブックなぞを手元に置いて読めば2倍楽しめるはずです。
そして、小説を読んでから京都を訪れれば観光の視点を変えて楽しめるはずです。
京都という街は平安・室町など悠久の建造物が今も息づく古風な街だと思われるかもしれませんが、そんなのは世界遺産やら文化遺産に指定されている一部の建造物に過ぎません。優美なる栄華の時代を味わいたいのなら奈良へ行った方が良いと言うものです。実際は平安京の碁盤の目の上に昭和の街並みが乗っかっていて道幅が驚異的に狭いせせこましい街なのであります。大企業の並でどんどん減ってきた個人商店が希少生物のように点在している点も特徴であります。もちろん古本屋も。京都という街は街の景観も文化財の一部として位置づけられておりますので、新開発の手が及んでいないというのが原因であります。道幅が狭いので、普通車が異様に少なく、その分自転車とバイクが街に溢れております。
交差点 斜め横断 どなられて 才気煥発 いやただの迂愚
オフィス街は一応近代建築で出来ておりますが、名古屋や札幌のそれと比べたら少しばかり小さく感じます。
おや、これは感想というより京都の街中案内みたいになってしまいました。
えっと、感想はと。
やっぱり読んで終わりじゃなく、後続に続こうと思えたことかな。
なむなむ。
↓の絵は先ほど持論をぶちまけていた色白・天然・華奢ついでに清楚の特徴を備えた女性像をこんな感じかなということで描いたものです。
しかしながら、この絵は僕の創作ではなく、チェン・シュウフェンさんの描かれた絵を模写したものです。